駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] 証券会社の「儲け」の構造 (三田哉)

概要

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最近の証券会社がどのようにして収益を上げているかを解説した本。出版は2013年で、主に2000年代の事例が扱われています。著者の三田氏は野村證券、バークレイズキャピタル、みずほ証券でフロント業務(トレーダー、クオンツなど)をやっていた人。

本書ではまず、委託手数料が長期的に減少し続けてきたことが述べられます。国内証券会社の営業収益を見ると、1990年にはおよそ半分を委託手数料が占めていましたが、2011年には2割程度にまで減少しました。金額にすると3兆円から5000億円ほどに減少しており、証券会社はこの減少分を他の方法で補わなくてはなりませんでした。

そのための方法として、本書では以下のようなものを取り上げて解説しています。

一般向けにやさしく書かれており、数式もほとんど出てきません。これらのリテール向けでない金融商品についてわかりやすく書いた本はあまり見ないので、けっこう貴重な存在だと思います。

以下は駄犬が特に興味を持った箇所のメモ書きです。

MSCB

商品について

  • 転換価額が下方に修正されていくCB(転換社債)
  • 日本では2000年ごろから発行されるようになり、資金調達手段が他にない企業がラストリゾートとして利用していた
  • 証券会社にとっては高収益ビジネスだった。他の投資家に割り当てるのではなく(それだとフィーしかもらえないので)、自己に割り当ててリターンを丸どりしていた。株価が下落傾向であっても、転換価額との差額を得られるため、リスクに対してリターンが大きかった

アーバンCB事件

  • MSCBは大いに流行ったが、2008年のアーバンCB事件で問題視されるようになり、急速に収束していった
  • アーバンCB事件の詳細については書くのが大変なのでこのあたりを参照

www.data-max.co.jp

  • アーバンCB事件をきっかけに、第三者割当増資をする場合の開示義務が厳しくなった。また、MSCBを使って資金調達をするのはまともな企業ではないという認識が共有された
  • 他に手段のない企業がどうしても資金調達をしたいというニーズは常にあるため、アーバンCB事件以後も同種のビジネスは続いているが、CBではなく新株予約権発行が使われるようになった

エクイティファイナンスアービトラージ

アービトラージ手法について

  • エクイティファイナンス(公募増資など)の発行価格は市場価格より安く設定される。そのため、あらかじめ空売りしておいて、公募で買い付けた株で返済すれば利ザヤが取れる
  • かつてはヘッジファンドがこの手法を好んで使っており、彼らは流動性のある銘柄の場合は、公募に数百億円の申し込みをすることもあった
  • ヘッジファンドが巨額の申し込みをするため、証券会社は公募増資をさばくのに苦労することはなかった。手間をかけて投資家向けにアピールしなくても公募の需要は十分であり、証券会社にとって公募増資はよいビジネスだった

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