駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本]アメリカの中学生はみな学んでいる「おカネと投資」の教科書 (ゲイル・カーリッツ)

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アメリカで子供向けに書かれた投資の入門書を邦訳したもの。著者のゲイル・カーリッツ氏はノンフィクションライターで、金融のキャリアはないみたいですが、内容におかしな点はなく、よく書かれていると思います。

内容としては、最初にリスクとリターンの関係や分散投資の利点など、特定の金融商品にかかわらない基本的な考え方を述べてから、銀行預金、債券、投資信託、株式についてそれぞれ説明していきます。特に株式について多くのページが割かれており、恐慌ではダウを構成するような優良銘柄でもガッツリ下げること、インサイダー取引やポンジスキームといった不正な株取引がまま見られることなど、株式に固有のリスクについてもきちんと書かれています。

タイトルでは中学生となっていますが、どちらかというと、大人が投資の入門書として読むのに最適な本といえそうです。アメリカ固有の記述も少しだけあるのですが(たとえばティッカーシンボルの説明とか)、ほとんどは日本でもそのまま当てはまる内容です。ただ、ある程度投資の経験があって、知識のある人があらためて読む必要はないかもしれません。

本書の内容のなかでは特に、「株価を変化させる9つの要因」という節がわかりやすくまとまっていると感心しました。やや長いですが以下に引用すると、

法律の変更

もしも、大量のガソリンを使い、排気ガスをまき散らす自動車の販売を禁止する法律が制定されれば、こんな自動車を製造する会社はやがて利益を減らしていくので、株式の購入希望者もだんだんと少なくなる。そうなると株価も下落していくが、反対に無公害の自動車を製造する会社は売り上げを伸ばし、その利益を増やしていく。こうした会社の株式を欲しがる人が増えていけば、当然その会社の株価も高騰していく。

新しい発明

ただの風邪でもきちんとした治療薬が開発されれば、誰にとっても素晴らしい発明であり、製薬会社にとってもそれは願ってもないチャンスだ。株式が間違いなく高騰するのだ。しかし、ティッシュペーパーを作る会社、点鼻薬を作る会社、のど飴を作っている会社はどうだろう。新薬の影響でこうした製品を必要とする人は減ってしまう。そうなれば株価も下がってしまうかもしれない。

天候の変動

温暖なフロリダやカリフォルニアに霜が降りれば、例年通りのオレンジの収穫は望めない。そうなるとオレンジやオレンジジュースを製造する会社は満足な営業ができず、利益もダウンして株価に影響が出てくるだろう。半面、除雪車や雪かき機、シャベルやブーツ、それにスキーなど、厳しい冬の天候を歓迎している会社が一方で存在している。こうした会社の株価はむしろ上昇に転じていく。

戦争や災害

戦争のようなどんなに恐ろしい事態であっても、株価に影響を与えずにはおかない。戦車や銃、戦闘機などの部品を供給している会社は、戦争が勃発すればその需要を高めていくものなのだ。ハリケーンなどの自然災害もまた、被害地の住宅や会社の復興に必要な商品を供給する会社に売り上げを伸ばす機会をもたらす。一方で、観光地がこうしたハリケーンに見舞われると、観光客相手のホテルやレストラン、航空会社にとっては大打撃となってしまう。

景気の良しあし

政治が安定して経済も活発なら、企業は大勢の人たちを雇ってたくさんの給料を払ってくれる。収入が増えればそのお金でぜいたくな休暇を過ごすことができるし、広い家に移り住み、あるいはリフォームと住宅にたくさんのお金をかけられる。衣服や装身具にもお金を費やすだろう。 反対に景気が悪くなれば、多くの人が職を失い、あるいは失業におびえながら毎日を過ごしていかなくてはならない。生活に対する不安が高まれば、人々はできるだけお金を使わないようになる。それはレストランや映画館、衣料品会社、小売店にとって売り上げの減少を意味し、自動車会社や車の販売会社、あるいはレジャー産業の売り上げにも大きく響く。生活していくうえで最低限のものしか売れなくなるので、こうした商品を取り扱っていない会社がこうむるダメージは大きい。多くの会社が株価を下落させていく。

マイナスイメージ

ある化粧品会社が動物実験を行っている。そんなことを記事に書かれてしまうと、多くの人たちがこうした会社の製品を使うことを拒否してしまうかもしれない。その結果、会社の株価は下落する。

流行やファッション

多くの会社でスーツやネクタイはこれ以上必要なしと判断されれば、ネクタイを作っている会社は収益を落としてしまう。反対にスポーツシャツやセーター、カジュアルなズボンを製造している会社は今後売り上げを伸ばし、利益を高めていくことが予想される。

人口構造の変化

以前に比べると人の寿命はどんどん長くなっている。寿命が延びることで、たとえば補聴器を製造する会社は売り上げを伸ばしていく。さらに早い段階で仕事をリタイアするようになれば、ゴルフ用品やレジャー関連の用具を作っている会社も売り上げを増やしていくだろう。

社会意識の変化

地球温暖化などの環境問題は、これまで長い間あまりに多くの人の関心を引くことはなかった。しかし、環境保護の必要を報じるニュースが増えると、太陽熱パネルの製造やリサイクル関連のサービスを提供する会社が非常に高く評価され、その株価も上昇していく。

というもので、これだけの記述で株価の変動の原因がかなりカバーされていると思います。たとえば「景気の良しあし」ではシクリカル/ディフェンシブの考え方について述べられていたり、重要な概念がやさしい説明で織り込まれています。為替と金利への言及が抜けているように思うけれど、子供向けには難しくなるので端折られたんじゃないかなあ。

というわけで、投資について広く浅い知識を得るための入門書としてはかなり優れた本だと思いました。