駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[今週のトレード] 2021/4/9 東芝TOB観測

今週の資産推移は+0.2%(+26万)でした。同期間のマーケットはTOPIXが-0.6%、マザーズ指数が+0.4%と指数に対してまちまちでした。

水曜日にイギリス系ファンドが東芝に1株5000円でTOBの提案をしたとのニュースが出ました。座組も決まっておらず外為法の審査を通過できるかも不透明という状況からすぐに5000円に寄せていく展開とはならず、4/6の終値3830円に対して半分くらい織り込む水準での推移となっています(金曜日の終値は4265円)。

www3.nhk.or.jp

www.nikkei.com

この先どうなるか自分にはよくわからないですが、外為法について調べたりNewsPicksのコメントを眺めたりして期待値はありそうに思って、木曜と金曜に買ってポートフォリオに入れました。TOB実施の成否がわかるまでは保有するつもり。あとはIPOを触らないと先週書いた先からセルムを買いました。4月IPOだと他にはオキサイドが良いと思いますが初値が高くて触らず、ビジョナルは公募価格からして高すぎるように見えます。

今週の取引

7367 セルム

新規に買いました。4/6(火)のIPO銘柄で、企業向けに研修サービスを提供する会社です。自社のコンサルタントが担当企業から要望をヒアリングして、個別にカスタマイズした研修コースを提案し、自社の人材DBから見繕って講師を派遣する(講師は業務委託)という事業をしています。

f:id:bone-eater:20210410030006p:plain

同業他社はいくつか上場していますが、その中でも講師を派遣するという点からインソースとアルーが近い業態と言えます。いずれもコロナショックで対面での研修が実施できなくなったことから一時的に業績を落としましたが、オンラインへの移行が進んだことで足下ではコロナ前よりも利益率が向上しています。以下はそれぞれインソースとアルーの四半期業績推移です。

f:id:bone-eater:20210410031458p:plain

f:id:bone-eater:20210410031546p:plain

セルムはFY2020, FY2021と2期連続で減収減益の見込みです。これは以下の動画でコロナ要因と説明されており、インソース&アルーの業績推移から類推するとFY2020Q4~FY2021Q2に影響があったと思われること、減収の幅としても妥当な範囲内と考えられることから説明を信用して良いように思われます。また、オンラインへの移行については開示資料に今年1月時点で研修の8割をオンラインで実施しているとの記載があります。

www.youtube.com

f:id:bone-eater:20210410033121p:plain

開示資料に四半期ごとの業績が記載されておらず、足下の回復度合いがわからないため確度は今ひとつなのですが、FY2022にはコロナ以前の業績の水準に復帰できる可能性が高いと考えます。また、インソースやアルーの業績がオンライン移行で良くなっているという話はそれなりに認知されているように感じる(Twitterのタイムラインで何度か見かけた)ので、ここに書いたようなことを考えている参加者は他にもおそらくいて、彼らがこれから本決算発表に向けて買いにくることが期待されます。

4/9の終値1340円は公募価格1280円に近く、時価総額83億もFY2019の純利益3.73億に対してPER22程度と、IPO直後の銘柄にありがちな異様に割高な水準ではありません(かといって割安でもないと思いますが)。大株主へのロックアップも完璧に掛かっており、下値はそれほどないと思います。それに対して(1) IPOセカンダリ特有のスパイクがあればそこで売れる、(2) 本決算発表の前後でうまいこと上がればそこでも売れる、(3) 季節性から1Q決算が強いと思われる(新人研修のため。インソースやアルーも4-6月の四半期決算が強い季節性がある。ただしセルムもそうである裏付けは取れておらず、他社に比べて新人研修の割合は低いように見えるため季節性も弱い可能性がある)ためそこまで引っ張れなくもない、と考えると期待値はまあありそうな気がします。上場から本決算発表までが1ヶ月程度と短く、タイミング的にそれくらいなら保有できるかなと考えました。長期保有するポジションではなくて持つとしても1Q決算までで、どこかで2~3割も上がればそれで手じまうつもりです。

ポートフォリオ

サマリー
  • 評価額合計 164,399,233円
  • 前日比 -97,939円 (-0.06%)
  • 月初比 +1,371,134円 (+0.84%)
  • 年初比 +38,381,314円 (+30.46%)
現物

f:id:bone-eater:20210410012757p:plain

信用

f:id:bone-eater:20210410012806p:plain

先物

f:id:bone-eater:20210410012821p:plain

[投資本] 千年投資の公理 (バット・ドーシー)

f:id:bone-eater:20210405230917p:plain:w300

いわゆるモート(経済的な堀)について、無形資産、乗り換えコスト、ネットワーク効果、コストの優位性といった点から分析した本。著者はモーニングスターのリサーチャー。モーニングスターは上場企業がどれだけ深い堀をもっているかを評価し、独自の指数(Wide-Moat Focus Index)を発表しており、それらの調査に携わっている方のようです。

モートという言葉自体はよく知られており、自分も通り一遍の説明は知っていましたが、そこからもう一段掘り下げた内容となっており得るものがありました。たとえばブランド価値について著者は「顧客が競合製品よりもプレミアムを乗せた価格を支払うかどうかがブランド価値である」と定義し、ソニーはダメブランドで、ティファニーは良いブランドだといいます。電気製品はスペックを比較して価格の安いものを買う顧客が大半だけど、ティファニーは同じアクセサリであってもロゴの付いた箱に入っているだけでより高い値段で売れるから。このように企業を評価する切り口をいくつも提示してくれます。

10年以上前の本であり、かつアメリカの読者に向けて書かれているため、挙げられている事例は日本の読者にピンとこないものも多いです。そこだけ気になりましたが、企業分析の観点をうまくまとめた本で読む価値があります。

無形資産
  • ブランド、特許、行政の許認可がある
  • ブランドは単に知名度があれば良いというわけではなく、顧客が競合製品よりもプレミアムを乗せた価格を支払うかどうか、顧客の囲い込みに寄与するかが重要である。ブランドを維持するためにはコストがかかるため、そのブランドがコストを上回るリターンを生まなければ競争上の優位性を築いたことにはならない
  • 特許は分散されたポートフォリオがあり、たえず新しい特許によって更新されることが重要である。有力な特許は申し立てを受けることも多く、利益を少数の特許に頼る企業にはリスクがある
乗り換えコスト
  • 乗り換えコストとは、A社の製品からB社の製品に乗り換えたときの利益がコストよりも小さいことを指す
  • 乗り換えコストには、金銭的なコスト、従業員の再訓練、事業リスクといった要素から構成される
  • 小売業や飲食業など、消費者志向の企業は乗り換えコストが低く、これらの企業の弱点になっている
ネットワーク効果
  • ネットワーク効果に基づいたビジネスは、自然に少数企業による独占状態を生む
  • ネットワーク効果の恩恵を受ける企業は限られており、物理的な財を扱うビジネスよりも情報を共有したりユーザ同士をつないだりするビジネスに多い
  • 早期に優位性を確立することが重要である。イーベイは日本に参入したがヤフーオークションがネットワークを作り上げていたため勝てなかった
  • 閉じたネットワークであることが重要である。先物は買った取引所で売らないといけないが、株式は買った取引所と異なる取引所で売ることができる。そのためNYSEよりもCMEのほうが競争上の優位性が高いといえる
コストの優位性
  • コスト的な優位性には、安い製造過程、有利な場所、独自の資産、規模の大きさという4つの要因がある
  • 安い製造過程は長い期間持続せず、ライバル企業にキャッチアップされることが多い。デルやサウスウエスト航空は今ではかつての優位性を大幅に失っている
  • 有利な場所はより強い優位性である。セメントは運送コストが大きいため、セメント工場は近隣地域の建設現場に最低コストでセメントを供給することができる
  • 独自の資産も強い優位性であり、たとえば天然資源や土地が挙げられる
  • コストの優位性が効果を発揮するのは、顧客の判断基準のなかで価格が大きな割合を占める場合である

[今週のトレード] 2021/4/2 アルケゴス破綻

今週の資産推移は+2.8%(+443万)でした。同期間のマーケットはTOPIXが-0.6%、マザーズ指数が+3.4%と指数に対してまちまちでした。

3月の資産推移は+14.7%(+2094万)でした。同期間のマーケットはTOPIXが+4.8%、マザーズ指数が-0.9%と指数に対してアウトパフォームでした。

ビル・フアン氏のファミリーオフィスであるアルケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻が伝わって月曜日にマザーズ指数が-1.8%、2000億の損失を出すと発表した野村が-16.3%下げました。1.5兆円の運用資産に対してデリバティブも使って8.5兆円かそれ以上のポジションを取り、ピラミッディングで値上がりしたポジションを積み増すスタイルで複数の株を25%以上買い占めていたといいます。最大のポジションがバイアコムで100億ドル程度買っており、チャートを見るとポジションの解消でモメンタムが崩壊しています。ただし水曜日にはもう個別の事案として消化されて上げ相場が再開し、あらためて強い地合を確認することになりました。

www.bloomberg.co.jp

f:id:bone-eater:20210403004324p:plain

今週は世界的なコロナ感染者数の増加傾向もあってかグロースが優勢でバリューが売られるという、今年ここまでの流れを巻き戻すような動きがありました。日本もコロナ感染者数は足下で増加に転じています。しかしコロナを理由にして日本株全体が下げたり、アフターコロナの銘柄が今年の上げ幅を消してしまうようなことはないと考えています。

f:id:bone-eater:20210403005731p:plain

3月は指数を大きくアウトパフォームする結果となりました。プレミアアンチエイジング(3月+69.0%)、BulSell(同+27.3%)、アクセル(同+29.4%)の寄与が大きく、この3銘柄で+1400万。残りの中長期ポジションが+600万、決算ギャンブルなどの短期ポジションが+200万、日経平均先物で-100万という内訳です。

3月IPOはAppier、スパイダープラス、イーロジット、ココナラ、ウイングアークを触って、合計で-39万(含み損益込み)となりました。3月IPOセカンダリは全体的に厳しく、初値を付けてからそのままモメンタムに乗っていくパターンがシキノハイテックしかなくて寄って5分後にはバケツリレーが始まって下げていくものばかりでした。自分はIPO銘柄を初値で買うことが多いのですが、当たりの入ってないくじを引くようなもので徒労感があり、4月はIPOセカンダリを手控えようかと思っています。決算シーズンの準備に時間を割いた方がパフォーマンス上がりそうです。

ポートフォリオ

サマリー
  • 評価額合計 164,138,849円
  • 前日比 -546,502円 (-0.33%)
  • 月初比 +1,110,750円 (+0.68%)
  • 年初比 +38,120,930円 (+30.25%)
現物

f:id:bone-eater:20210403012949p:plain

信用

f:id:bone-eater:20210403012957p:plain

先物

f:id:bone-eater:20210403013006p:plain

[今週のトレード] 2021/3/26

今週の資産推移は+1.1%(+172万)でした。同期間のマーケットはTOPIXが-1.4%、マザーズ指数が-2.6%と指数に対してアウトパフォームでした。

マザーズ指数が水曜日に-3.2%下げて金曜日に+3.0%上げて、相変わらずヤバい雰囲気になってもすぐに戻すというのを繰り返しています。信用買い残が足下で3兆円を超えてきて、今年の新興市場があまり良くないわりにずっと増えていくのでちょっと恐いなと思っています。

f:id:bone-eater:20210328111158p:plain

3月IPOの上場ラッシュが始まりました。初値からダラダラ下がっていく値動きになるものが多く、IPOセカンダリにはチャンスが乏しいという印象です。とくに小型株はその傾向が見られます。来週火曜日のAppier、スパイダープラスが3月IPOの主役と思うのでこの2社が盛り上がれば少しは雰囲気が変わるかもしれません。今年のIPOで初値より上で値を保っているものはQDくらいしかなくて、IPOセカンダリの参加者にはこのところ負け続けという人が多いと思われ、それでも初値だけはやたらと高くなるのが不思議です。

f:id:bone-eater:20210328104510p:plain

ここ数年プロセスの微細化に苦戦し、TSMCへの委託を検討していたIntelが自社ファウンドリへ2兆円の投資を決めました。半導体製造装置の市場が世界で年8兆円くらいなのでインパクトのあるニュースで、半導体セクタが盛り上がっています。すぐにポジションを取ったりはしませんでしたが、7nm&EUVでやると報道されており恩恵のある会社を監視リストに入れておきます。

www.nikkei.com

ポートフォリオ

サマリー
  • 評価額合計 159,713,202円
  • 前日比 +2,251,238円 (+1.43%)
  • 月初比 +17,623,289円 (+12.40%)
  • 年初比 +33,695,283円 (+26.74%)
現物

f:id:bone-eater:20210328100229p:plain

信用

f:id:bone-eater:20210328100238p:plain

先物

f:id:bone-eater:20210328100248p:plain

[今週のトレード] 2021/3/19 日銀、今後はTOPIXのみ買い入れ

今週の資産推移は+5.1%(+765万)でした。同期間のマーケットはTOPIXが+3.1%、マザーズ指数が+1.9%と指数に対してアウトパフォームでした。

3/19の日銀会合で今後はTOPIX ETFだけを買い入れるという決定があり、後場に入ってNT倍率が急落。年6兆円の削除については事前に観測報道がありましたが、ETFの構成変更はサプライズでした。コロナショック後の1年くらい、ずっと日経平均TOPIXをアウトパフォームしていて、日経平均先物でヘッジしていると割を食う局面が多かったですが、ここで反転となると期待したいです。

www.nikkei.com

第一報が流れたときにちょうどザラバを見ていて、ファーストリテイリングをショートするというのはすぐに思い浮かんで、そのときの株価が94000円台でした。ただその時点では事前にどれほど織り込まれているものなのか判断つかず、ポジションも取れずにその後の下落を眺めることになりました。Twitterやブログを見ると先物でNT倍率の縮小に賭けるポジションを組んだり、臨機応変に立ち回れた人もいて、すばらしいと思います。ニュースフローに咄嗟の対応ができるのは持って生まれた性格もあるだろうけど、それよりもたぶん事前の準備が大切なのでしょう。

f:id:bone-eater:20210319215020p:plain

今週の取引

3611 マツオカ(-1,639,080)

手じまい。3/16の昼休みにこのニュースが出ました。記事に「放火された2工場は、いずれもヤンゴン戒厳令が敷かれている地域にあり」とありますが、マツオカはヤンゴンのシュエピターに工場を持っていて、この地域はまさに戒厳令の対象になっています。放火されたのはマツオカの工場である可能性が高いと考えて後場に全て売りました。

www.sankei.com

その後ニュースで炎上する工場の映像も流れました。建屋が盛大に燃えているところが映っていますがマツオカの工場かどうか自分には判断つかず、続報もないためこの記事を書いている時点で結局どうなのかはわかっていないです。

www.youtube.com

株価は自分が売ったところから2%くらい上にいますが、TOPIXも同じくらい上げており、指数比だとちょうどトントンです。ミャンマーの売上は全体の6~7%で、ミャンマー工場の簿価は10億もないので、放火されたのがマツオカの工場だったとしてもおそらく業績に大した影響はなく、じつは他の参加者から気にされていないのかもしれません。それほど自信のあるポジションではなかったので、すぐに買い直すことはしないつもりです。

4432 ウイングアーク(-)

新規に買いました。3/16上場のソフトウェア企業で、帳票設計ツール『SVF』が主力製品です。IPOの開示資料を見て、今の時価総額(3/19終値で609億)なら割安のように思いました。

SVFは専用のUIで帳票のデザインができて、作成した帳票をシステムに組み込むことができて、システムのデータを流し込んでPDF等の形式で出力させられるというツールです。日本の業務システムで幅広く使われているものです。金融SEをやってたときに担当システムで使っていて、個人的にも親近感があります。1996年リリースの枯れたツールですが、意外にもまだ売上を伸ばしています。(キャプチャは全社の売上で、他のソフトウェアも入った数字です)

f:id:bone-eater:20210320012233p:plain

SVFは帳票を作るための単機能のツールです。定期的にバージョンアップしたり、最近クラウド版がリリースされたりしているものの、基本的には枯れたソフトウェアであって、今後大規模な開発が発生して開発費が増大する可能性は低いように思われます。限界利益率の高い事業をしており、今後も売上が伸びるのであれば、そのぶんが利益に上乗せされていく推移になると期待できます。

スイッチングコストが高いことも魅力です。類似のツールは他にもありますが、帳票のデザインデータは標準化されておらず、わざわざ他のツールで帳票を作り直すモチベーションは通常ないので、いちど導入すると乗り換えることはまずありません。そのため、既存の顧客から上がる保守などのフィーは安定した収益と考えられます。ただしシステムが運用停止となったときにはもちろんSVFの保守契約も切られます。開示資料によると保守契約の継続率は93~94%とのことです。

f:id:bone-eater:20210320014238p:plain

問題点はまず財務の悪さで、2013年にMBO上場廃止した経緯からB/Sに450億もののれんと無形資産があります。前期に18.9億の減価償却をしていますが、かなりの部分はMBOに起因するものと思われ、今後も業績の下押し要因となります。ただしIFRSのためのれん部分は減価償却がなく、安定した事業であるため減損のリスクも低いと考えます。

変化の激しいIT業界で新規導入のシェアが低下するリスクもあります。会社発表の数字ですがSVFは帳票設計ツールの市場で69%のシェアがあり、シェアを守る側の会社です。JasperReportsなど無償で使えるOSSもあり、これからも新しいツールが出てくるでしょうから、他のツールに対する優位性を保てないと、今後新規開発されるシステムでSVFが採用されなくなるおそれがあります。

ここは2月決算のため一ヶ月後には本決算が発表されます。FY2021は減収の業績予想となっており、コロナの影響でIT投資が停滞したことが理由に挙げられていますが、FY2022で増収に転じられるかどうかの確度を見たいところです。上場のタイミングで成長可能性の資料を出さなかったのですが、本決算のタイミングでは決算説明資料を出してくると思うので、その内容も見て継続的に保有できるかを判断しようと思います。

ポートフォリオ

サマリー
  • 評価額合計 157,997,108円
  • 前日比 -263,484円 (-0.17%)
  • 月初比 +15,907,195円 (+11.20%)
  • 年初比 +31,979,189円 (+25.38%)
現物

f:id:bone-eater:20210319214049p:plain

信用

f:id:bone-eater:20210319214028p:plain

先物

f:id:bone-eater:20210319214041p:plain

[投資本] リバモア流投機術 (ジェシー・リバモア)

f:id:bone-eater:20210318232455p:plain:w300

ジェシー・リバモアが自らトレード手法を著した『How to Trade in Stocks』の邦訳。原著が書かれたのは1940年で、リバモアが亡くなった年です。リバモアはキャリアの中でトレードスタイルが変わっていったようですが、本書ではキャリア後期のリバモアが用いたトレンドフォローの手法が説明されています。

企業のファンダメンタルズは無視して株価の動きだけに注目し(「価格変動の裏にあるさまざまな理由に興味を持ちすぎるのは良くない」とのこと)、ピボットポイントを抜けたらポジションを取ってピラミッディングで積み増していき、トレンドが崩れたら手じまいます。特徴と言えそうなのは以下のような点でしょうか。

  • そのときの市場で注目されているセクタの先導株をトレードする。また、トレード候補の銘柄はごく少数に留める。本書が書かれた当時の注目セクタは鉄鋼、自動車、飛行機、通信販売だったそうで、それら4セクタから2銘柄ずつ候補とすることが薦められています
  • 同一セクタに属する2銘柄の株価を合計した値の推移からトレンドを判断する(キープライス)。その理由として「1銘柄だけに頼ると偽の変動にとらわれる危険性がある。2銘柄の変動を組み合わせることで合理的な確信が得られる」と書かれています
  • ポジションを手じまって利益が出るたびに、利益の半分は口座から出金する。リバモア自身これを実践し、トレードで利益を出すたびに20~30万ドルを出金していたとのこと(その金を最期にはすべて失ってしまったことも書かれていますが)

おそらく当時利用可能だった情報の制約からこうなっていて、もしリバモアが現代に生きていたらまた違った方法でトレードしているのでしょう。株価を以下のような表に書き込んでトレンドの変化を判断する方法が紹介されていますが、当時はチャートが簡単に参照できなかったためにこうなっているのだと思います。

本書に書かれていることは現代の視点からするととくに真新しい点もないシンプルなトレンドフォローですが、モメンタムという概念がどれだけあったかもわからない時代にこの手法を実践していたことで優位性があったのかなと思います。もちろんリバモア自身の才覚もあったんでしょう。この手法で当時の相場をどう立ち回ったのか、『欲望と幻想の市場』も読んでみたい。

f:id:bone-eater:20210318232258p:plain

[投資本] 市場サイクルを極める (ハワード・マークス)

f:id:bone-eater:20210316162243p:plain:w300

ディストレスト投資で知られるハワード・マークスが市場サイクルについて書いた本。景気サイクル、企業利益サイクル、信用サイクル、ディストレスト・デットのサイクル、不動産サイクルを取り上げて、それぞれのサイクルがどのようなパターンを辿るか述べたものです。

サイクルの上昇局面あるいは下降局面が長期化したり、極端に大きく進んだりすると、「今回は違う」と言い始める人が出てきて、そのための理屈がひねり出される。しかしサイクルには自律調整力があるため、やがて振り子のように逆戻りのプロセスが始まり、後から見ればサイクルの一局面にすぎなかったことがわかる。その時々のマーケットの雰囲気にとらわれず、俯瞰的な視点で投資に向き合うための手がかりが書かれています。

著者はマクロの予測が難しいことをことわった上で、投資家は市場サイクルのどこにいるのかによってリスク量を調整すべきであり、そのために市場サイクルの知識が役に立つといいます。自分はどちらかというと「マーケット全体の動きはわからないから常にポジションサイズを一定に維持する」という考えでしたが、コロナショックで大きなDDを喰らって最近ではちょっと違うかもと思っていて、今後のリスクコントロールの参考になりそうだと思って読みました。

マクロ情勢の未来を予測しようとしても、すぐれた投資パフォーマンスの達成にはつながらないだろう、というのが私の考えだ。マクロ情勢の予測によってアウトパフォーマンスを実現したことで知られる投資家は、ほんの一握りしかいない。

(中略)

私の考えでは、ポートフォリオをある時点において最適な形で組むには、攻撃性と防御性のバランスをどのようにとるか決めることが最良の方法である。そして、そのバランスは、その時々の投資環境の変化や、さまざまな要素がサイクルの中で位置している場所に応じて、調整すべきである。

内容としては『投資で一番大切な20の教え』の8章や15章の内容を引き延ばしたような感じで、著者が顧客向けに書いてきたレターを引用して解説を加えるというスタイルも同じですし、そもそも『投資で一番大切な20の教え』からの引用もちょくちょく出てきます。『投資で一番大切な20の教え』を先に読んだほうがよく、それで物足りない人がより深く学ぶために読む本と思います。

以下は読みながら取ったメモです。

景気サイクル
  • 長期と短期のサイクルがある
  • 長期の景気サイクルは、人口動態の変化、労働投入量(労働参加率や1人当たり労働時間)、教育水準、技術革新、グローバル化等に左右される
  • 短期の景気サイクルは、人々の心理や感情、経済見通し、在庫によって左右される。労働者数と所得額が安定していても限界消費性向は短期的に変動する。また、資産価格が上昇すると人は支出を増やす傾向がある
  • 経済見通しには自己実現的な側面があり、人々が将来の好況を見込んでいれば支出と投資が増え、実際に好況が訪れることとなる。逆もまた成り立つ
  • 戦争や天災のような外生要因も短期サイクルに影響を与える
企業利益サイクル
  • 企業利益は景気サイクルの影響を受けるが、経済全体の変動よりも激しく不安定である
  • 化学品、金属、プラスチック、エネルギー、半導体などの業界は景気サイクルの影響を直接的に受ける。逆に食品、飲料、薬品などは景気サイクルに左右されにくい
  • 低価格の消費財に対する需要はさほど変動しないが、高級材への需要は激しく変動する
  • 耐久財は長期間使えるため、景気低迷時に買い換えが先延ばしになる傾向があり景気サイクルによって大きな影響を受ける。また、耐久財は融資を受けて購入することが多いため信用サイクルの影響も受ける
  • 財務レバレッジの高い企業は景気サイクルの影響を大きく受ける
信用サイクル
  • 各種サイクルの中で最も激しく変動し、最も大きな影響を及ぼす
  • 信用サイクルが加熱すると、金融機関は本来なら融資に値しない借り手やプロジェクトに資金を提供するようになる
  • 資本コストが資本収益率を超えるプロジェクトへの投資が行われ、資金が回収できなくなると、信用サイクルは下降局面へ反転する
  • 信用サイクルの底では、利用可能な資本の規模が縮小し、超優良な借り手しか対象にならなくなる
  • 信用サイクルに対処するうえで重要なのは、すべてが順調な状態がしばらく続いており、良いニュースが絶えず、リスク回避志向が薄く、投資家が意欲的なときに、サイクルが頂点に達するのだと認識すること
ディストレスト・デットのサイクル
  • 債券への冷静さが保たれている時期には、貸し手や債券投資家は十分な安全域を求める
  • 信用サイクルが過熱すると、状況が少し悪化しただけで返済ができなくなるような債券が発行されるようになる
  • その後景気後退が起こると債券がデフォルトし始め、投資家がリスク回避志向を強めて債券相場が急落する
  • 景気が回復するとデフォルト率が低下し、債券価格は上昇に転じる
不動産サイクル
  • 景気が良くなると不動産への需要が拡大し、デベロッパーが建設意欲を高める
  • 低コストでの資金調達が容易になり、プロジェクトの予想リターンが向上し、建設着工件数が増加する
  • 着工してから竣工まで数年の時間がかかるため、好況から不況に移り変わってしまうことも多く、空室率の上昇や相場下落によりリターンが低下する
  • 不況で建設活動が低迷し、建設資金が調達しにくくなる