駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] ゾーン、ゾーン最終章 (マーク・ダグラス)

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トレードの精神面について分析した本。著者のマーク・ダグラス氏は80年台にメリルリンチでトレーダーの仕事をし、その後トレーダーのコーチングをする会社を立ち上げたという経歴の持ち主。『ゾーン』『ゾーン最終章』と2冊で続き物のようになっていますが、ゾーン最終章はダグラスの死後に遺稿をまとめて出版したもので、内容はゾーンとほぼ共通しています。どちらか片方だけ読めば十分と思います。

書名にもなっているゾーンとは、精神的不快感や恐れなしにリスクを受け入れる涅槃のような精神状態のことを指します。書中では以下のように表現されています。

自分が「ゾーン」にいる状態とは、本質的に自分の心とマーケットが同調している状態を意味する。その結果、あたかも自分自身とその他のマーケット参加者の集合的意識の間に何の分け隔てもなくなったかのようになり、マーケットがまさに何をしようとしているか感じられるようになるのである。つまりゾーンは、ただ単に集団心理を読み取れる状態だけではなく、それ以上、つまりマーケットと完全に同調している状態の心の空間なのだ。

マーク・ダグラス; Mark Douglas. ゾーン ウィザード・ブックシリーズ (Kindle の位置No.1701-1705). パンローリング. Kindle 版.

株のトレードでポジションを取るとき、たいていの人は心がざわめき、不安や恐怖感を抱くものでしょう。少なくとも駄犬は精神面においてまったくの凡人なので、ちょっと大きなポジションを取るとストレスを感じるし、その後の値動きでメンタルが振り回されてしまいます。本書ではそのような感情の原因を分析して、どうすればゾーンの境地に至れるかを述べています。

本書の内容はやや回りくどく、あちこちで枝葉に分かれますが、骨子は以下のようなものです。

「分析に対する幻想」を理解する

マーケットの値動きを分析し、その方向に賭ける人はたくさんいます。ですが、それはあくまで自分の想像力に基づくものであって、分析結果が当たるにせよ外れるにせよ、値動きの真の原因がわかることは決してありません。

マーケットに参加する世界中のトレーダーの意図をあまさず知ることは不可能です。そのため、適切な分析をすれば確実に勝てるという考えを持ってはいけないとダグラスは言います。

「分析に対する幻想」は、適切な分析をすれば、ほかのトレーダーたちの売買注文が値動き方向に及ぼす影響度を正確に予測して、損失リスクを実際に取り除いて確実に勝てる、という信念から生じる。言い換えると、「分析に対する幻想」を抱きながらトレードをしているときは、あたかもギャンブルの要素を取り除いて、値動きに賭けられるかのように思える。だが、これほど真実からかけ離れていることはなく、そんなことを信じていると、最終的には非常に高い代償を払うはめになる。

マーク・ダグラス; ポーラ・T・ウエッブ. ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスの最後のアドバイス (Kindle の位置No.1948-1952). パンローリング株式会社. Kindle 版.

トレードの世界では無リスクや低リスクの状況はありえないのに、自分は例外だと考えるトレーダーがいて、彼らは自分の分析と異なる方向にマーケットが動いたときに大きな苦痛を感じます。また、自分の分析に固執するとドローダウンが大きくなりがちで、負けを認められずに破滅的な損失を被ることもあります。

結局のところマーケットが次にどう動くかはわからないので、マーケットの好きなままにさせて、それがどういう動きであろうと受け入れる心理状態がトレーダーには求められます。

確率で考える

その時々のマーケットの動きがわからなくても、トータルで利益をあげることはできます。そのためには確率で考えることが必要だとダグラスは言います。

カジノ業者は客とランダムな勝負をしているのに、一貫して収益を上げています。カジノで行われるギャンブルには、統計的な優位性が胴元にあるからです。たとえばブラックジャックは掛け金の約4.5%が胴元に残るルールで、十分なゲーム数があればカジノ業者の手元には確実に利益が残ります。

優れたトレーダーはカジノ業者と同じ戦略を採っており、1つ1つのトレードの結果にかかわらず、最終的には自分が勝てることを知っています。

分析によって得られるものは、一連の予測、つまりサンプルサイズがある程度大きな予測に対する統計的なエッジ(優位性)だけだ、ということを私は学んでいる。この場合には、私が選ぶどのサンプルに対しても勝率を判断できる。しかし、そのサンプル内の個々のトレードの勝率は常に未知であり、判断できない。

マーク・ダグラス; ポーラ・T・ウエッブ. ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスの最後のアドバイス (Kindle の位置No.2181-2184). パンローリング株式会社. Kindle 版.

この考え方は一見あたりまえのように思えますが、ダグラスはコーチングの仕事で「自分は確率で考えていると思い込んでいながら実際はそうでないトレーダーを何百人と見てきた」といいます。具体的な例としてボブというトレーダーのことが紹介されています。期待値がプラスのトレードを積み重ねれば最終的に利益を出せると頭ではわかっていても、実際に実行できるとは限らないということです。

信念の役割

勝てるトレーダーになるために必要なのは「私は一貫した勝者である」という信念を確立することだとダグラスは言います。具体的には以下の7点が挙げられています。

①私は自分の優位性を客観的に確認している。 
②私はすべてのトレードでリスクを前もって決めている。 
③私は完璧にリスクを受け入れている。あるいはトレードを見切ることをいとわない。 
④私は疑念も躊躇もなく自分の優位性に従う。 
⑤私はマーケットが可能にしてくれた勝ちトレードから利益をつかみ取る。 
⑥私はミスを犯すことへの自分の対応を継続的に監視している。 
⑦私はこうした一貫した成功の原理の絶対的必要性を理解している。したがってけっしてそれを破らない。

マーク・ダグラス; Mark Douglas. ゾーン ウィザード・ブックシリーズ (Kindle の位置No.3313-3318). パンローリング. Kindle 版.

これらの信念を確立するために、自分を信頼し自信をもつこと、トレードにおいて一貫性をもつこと、「売買演習」を実施すること(自分の決めた優位性とルールに厳密に従って最低20回のトレードをすること)が大切だと述べられています。

まとめ

この記事を読むと、いかにも当たり前のことばかりと思われるかもしれません。「期待値がプラスのトレードをしよう」「リスクリワードレシオで考えよう」というのは誰もが耳にしたことがある言葉でしょう。しかし、知識として知っていても、実際にポジションを取ると心に恐怖が生まれるものだと思います。本書はその背景を分析的に書いており、自分のことと照らし合わせて面白く読めました。

本書の内容は、テクニカル分析を使う短期トレーダーを前提に置いています。中長期でポジションを持つ投資家にはあまり合わないかもしれません。