著名なバリュー投資家(グレアム、バフェットなど)の手法や、他にもいくつかの手法(小型株投資、イベントドリブンなど)を概観して、エッセンスを抽出して紹介する本。著者のミハルジェビック氏はCFA(公認証券アナリスト)、ニュースレターの編集長で、投資家というよりはリサーチの人のようです。
読み終えて一番の感想はバリュー投資って手間の掛かる方法なんだということ。誰にでも簡単に取れる情報では優位性がなく、バランスシートに現れないような隠れた価値を見つけに行くことになるため、紹介されている手法のほとんどで何らかの調査が必要になります。また、資産などの評価だけではなく、対象企業の事業価値そのものも加味して投資判断をするためには、対象企業の事業領域についても知らなくてはなりません。
バリュー投資という言葉は知っているが曖昧なイメージしかないという人が、解像度を上げるために適した本だと思います。「PBRが○倍だから」「ネットネット株だから」みたいな、ツールでスクリーニングできるようなことはバリュー投資の入り口に過ぎないことがよくわかります。
特におもしろかったのは隠れ資産に注目した投資を扱った3章と、小型株投資の7章。以下は読みながら書いたメモです。
隠れ資産投資
スクリーニングのアイディア
小売業、レストラン、ホテルなどの会社が、事業で使う不動産の多くを自社所有していることがある。何十年も続いている会社であれば、簿価が実態よりも低い可能性がある。このような会社については、その不動産を売却してリースバックするという前提でその会社を分析するとよい。そうすれば、実際の資産と運営している事業を別々に評価することができる。
繰越損失に対して評価引当金を計上している(NOL)会社では、NOLのぶんだけバランスシート上の株主資本が実際よりも低く見えている可能性がある。NOLは将来の推定フリーキャッシュフローと見ることもできる。
コングロマリットの評価はそれぞれの事業の評価を合計したよりも低くなって当然だと考えられているが、経営陣の能力や戦略によってそのギャップが埋められることがある。製造業が金融サービス事業を行っている場合など、全体として低利益率の会社が高利益率の事業を抱えているケースは注目に値する。
投資の判断
隠れ資産があったとしてもそれだけで投資してはならず、中核事業を分析すること。隠れ資産だけで投資しても、本業も魅力的でなければ、うまくいくことはあまりない。中核事業を評価した結果、それだけでもマーケットの評価が割安だという状態が望ましい。
あったはずの隠れ資産が存在しなかった例は、バリュー投資の世界にはいくらでもある。著者は「2人以上の著名な投資家が保有している株については、それにどれほどの価値があっても、隠れ資産とは看做さない」というルールを設定している。
隠れ資産の価値がいつになれば株主のものになるかがわからなければ、他の投資家に隠れ資産について知らせても何も起こらない。価値がすぐに株主の利益になるかどうかが重要である。
小型株投資
スクリーニングのアイディア
最低限の社員がいること。社員数が10人未満の会社で最悪なのは事業実態がない場合である。事業形態によっては社員がいなくてもまっとうな会社はあるが、このような形態は利益の対立が起こりやすい。ペーパーカンパニーがすばらしいリターンを上げることはほとんどない。
年間収益の下限を設定すること。収益を上げていない小企業の大部分はやがて株主の価値を破壊することになる。
インサイダーが所有する株式の割合が一定(5%~25%程度)であること。低すぎると利益相反に、高すぎるとガバナンスの問題に繋がる。
インサイダーが最近株を売却していないこと。小型株はインサイダーと投資家の情報のギャップが大きいため、インサイダーの売りは大きなマイナス材料となる。
機関投資家が所有していること
小型株の中には、以前は中型株とか大型株だったのに転落した会社もある。マーケットの恐れや短期的な失望が原因なら、決断力を持って投資するとうまくいくことがある。