駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] 適時開示実務入門 (鈴木広樹)

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上場企業の開示担当者向けに書かれた適時開示の解説書。JPXが『会社情報適時開示ガイドブック』を出していますが大変な分量でなかなか読み通せない代物らしく、担当者が実務の概要を簡潔につかめるよう書かれた本です。

もちろんぼく自身が適時開示の実務をやるわけではありませんが、投資家として日々TDnetにアクセスし適時開示に目を通しており、その裏側を知りたいと思って読みました。細かなレギュレーションを説明していくページも多く、投資家の目線で読むときは飛ばしながら興味のあるところを拾っていく読み方になると思います。

個人的に収穫だったのは、上場企業におけるさまざまな決定事実や発生事実について、開示が義務づけられていることと開示するかどうか各社の裁量に委ねられていること、その線引きの基準が表になって載っているんですね。ぼくは今まで業績予想の修正や配当予想の修正を、それぞれの企業が独自に判断して出したり出さなかったりしているんだろうと何となく思っていました。しかし実は基準があって、修正幅が一定の基準を超える場合は必ず開示しなくてはいけないのだ! 月次を出している企業だと、売上の数字だけはそれなりの確度で推測ができるので、そこから「前期比でプラス○パーセントくらいの売上がありそうだから、上方修正が出そうだ」と考えていくことができるんじゃないかなあ(要検証)。逆に資本提携は必ず開示するものだと思っていましたが、取得価額が基準を上回らなければ開示しなくてもかまわないんですね。こういうのも日本株をやる上ではルールの一環といえるし、個人投資家は適時開示のレギュレーションなんて気にしない人が多いだろうから、ひょっとしたら自分の優位性に繋がることもあるのかもしれません。

適時開示の実務者向けのノウハウとしては、インサイダー取引の防止と、迅速な開示を遂行するための仕事の段取りの箇所がおもしろかったです。前者はどんな重大な機密であっても開示してしまえばそれ以降はインサイダー情報にならないので、できるだけ早いタイミングで開示しましょう、それまでの間は情報保持者の数をできるだけ小さくしましょうみたいな話。後者は取締役会等で機関決定したら即座に開示できるように、事前に取締役会の議案を確認しましょう、想定される決議の内容に沿って資料も準備しておきましょう、みたいな話です。TDnetの開示内容を作っている人たちのことにイメージがわく気がします。

以下、開示の基準で自分が押さえておこうと思った箇所のメモです。

業務提携
  • 翌3期間のいずれかにおける売上高の増加見込額が前期の売上高の10%以上
資本提携
  • 株式を取得する場合、取得価額が前期末における純資産額と資本金の額の小さい方の10%以上
  • 株式を取得される場合、取得される株式数が前期末における発行済株式総数の5%超
新製品または新技術の企業化
  • 翌3期間のいずれかにおける売上高の増加見込額が前期の売上高の10%以上
  • 特別に支出する見込額が前期末における固定資産の帳簿価格の10%以上
子会社取得
  • 新子会社の資本金の額が資本金の10%以上
  • 前期における新子会社との仕入または売上取引高が総仕入または総売上高の10%以上
  • 新子会社の前期の期末における総資産の帳簿価額が前期末における純資産額の30%以上
  • 新子会社の前期の売上高が前期の売上高の10%以上
  • 新子会社の前期の経常利益が前期の経常利益の30%以上
  • 新子会社の前期の当期純利益が前期の当期純利益の30%以上
  • 新子会社取得の対価の額が前期末における純資産額の15%以上
業績予想の修正
  • 業績予想を開示している場合、前回予想値と、今回予想値又は当期実績値とを比較して、増減が

    • 売上高 10%以上
    • 営業利益 30%以上
    • 経常利益 30%以上
    • 当期純利益 30%以上
  • 業績予想を開示していない場合、前期実績値と、今回予想値又は当期実績値とを比較して、増減が

    • 売上高 10%以上
    • 営業利益 30%以上
    • 経常利益 30%以上
    • 当期純利益 30%以上