駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] エナフン流VE投資法 (奥山 月仁)

f:id:bone-eater:20201012002508p:plain:w300

バリュー投資(収益バリュー)の考え方を、GEの経営手法「バリューエンジニアリング」を用いながら説明した本。著者の前著とおおむね似通った内容で、前著をすでに読んでいると得られるものは少ないかもしれません。前著の内容を深堀りしつつ、著者自身の過去のトレードを事例に実践方法を説明するという体裁になっています。

f:id:bone-eater:20201011233133p:plain

本書で提示されるバリューエンジニアリングの式がこれ(p.51より引用)で、企業の本質的価値と株価のギャップが上昇可能性であり、たとえば本質的価値3000円の株がマーケットで2000円の株価で取引されていれば、

V = (I / P) - 1
  = (3000 / 2000) - 1
  = 0.5

で0.5倍ぶんの上昇可能性があるよということが表現されています。本質的価値が向上するか、現在の株価が下がれば、そのぶんギャップが拡大して上昇可能性も大きくなるというわけです。

こうやって書いてみるとなんだか当たり前のような気がしますし、わざわざバリューエンジニアリングを引き合いにしなくてもふつーにこの式を書けばよかったのでは? と読んでいて感じましたが、バリューエンジニアリングは著者がサラリーマンの仕事をする中で影響を受けた手法らしく、株式投資に持ち込みたかったんでしょうか。

さて、この式において現在の株価は自明ですが、企業の本質的価値は自分で考えなくてはなりません。著者は将来(3~5年後に株価2倍を狙うと書かれているので、おそらくそれくらいの時間軸)のEPSを予測し、それに業種平均や成長性から妥当と考えられるPERを掛けることで本質的価値を予測することを勧めています。

将来のEPSをどうやって予測するのかが難しいところですが、その方法については「自分なりの投資ストーリーを組み立てていく(p.120)」「決算書や決算説明資料を何期分も読み込む必要がある(p.122)」などと書かれているものの、定性的なやり方に偏っており、具体的な説明にも乏しいように思われました。(EPSを予想する方法は一般化しづらいし、かんたんに書けないのはわかるけど、個人投資家向けの本はここをカッコに入れてしまうことが多いです)

たとえばソニーの事例では、著者が家電量販店に行ってソニーの商品がたくさん売れ筋になっていると気づいたこと、イメージセンサの将来性に期待したことなどが書かれています。このような投資ストーリーと将来のEPSは別の話だと思いますが、著者がソニーのEPSをどのように算出したのかはまったく触れられていません。

また、著者はバリューエンジニアリング投資の原則として以下の5つを挙げています。

2倍高以上を狙える株のみを買う

前出の式に当てはめて、V>1.0となる株を買うということですね。10~20%の上昇狙いでは誤差に埋もれてしまう、とのこと。

3~5年の長期保有

人々の評価が一変するには時間がかかるため、長めの時間軸で保有する。ただし必ず3~5年保有しなくてはならないというわけではなく、自分の考える本質的価値に見合う株価に達したら、そこで売ってかまわない。

5~10銘柄に集中投資する

著者自身は5~7銘柄に分散しているとのこと。

先の明るい企業にだけ投資する

ビジネスが成長している企業に投資する。割安ならよいというわけではなく、成長性がないと駄目というスタンスです。

ボーナスポイントになりそうな材料を探す

バリュートラップにはまらないためにカタリストを探しましょう、みたいな話です。

全体的な所感としては、バリュー投資の中でも「収益バリュー」と呼ばれる、企業の将来の成長と足元の株価とのギャップを取りに行く考え方をうまく説明しており、良い本であると思いました。

他の主要な手法と比べて、著者の提唱するバリューエンジニアリング投資にどのような特徴があるのかを説明している点も誠実です。成功したときのリターンではモメンタム投資に劣ることや、平均的なパフォーマンスで満足できるならインデックス投資でよいということが冒頭で述べられています。