いわゆるモート(経済的な堀)について、無形資産、乗り換えコスト、ネットワーク効果、コストの優位性といった点から分析した本。著者はモーニングスターのリサーチャー。モーニングスターは上場企業がどれだけ深い堀をもっているかを評価し、独自の指数(Wide-Moat Focus Index)を発表しており、それらの調査に携わっている方のようです。
モートという言葉自体はよく知られており、自分も通り一遍の説明は知っていましたが、そこからもう一段掘り下げた内容となっており得るものがありました。たとえばブランド価値について著者は「顧客が競合製品よりもプレミアムを乗せた価格を支払うかどうかがブランド価値である」と定義し、ソニーはダメブランドで、ティファニーは良いブランドだといいます。電気製品はスペックを比較して価格の安いものを買う顧客が大半だけど、ティファニーは同じアクセサリであってもロゴの付いた箱に入っているだけでより高い値段で売れるから。このように企業を評価する切り口をいくつも提示してくれます。
10年以上前の本であり、かつアメリカの読者に向けて書かれているため、挙げられている事例は日本の読者にピンとこないものも多いです。そこだけ気になりましたが、企業分析の観点をうまくまとめた本で読む価値があります。
無形資産
- ブランド、特許、行政の許認可がある
- ブランドは単に知名度があれば良いというわけではなく、顧客が競合製品よりもプレミアムを乗せた価格を支払うかどうか、顧客の囲い込みに寄与するかが重要である。ブランドを維持するためにはコストがかかるため、そのブランドがコストを上回るリターンを生まなければ競争上の優位性を築いたことにはならない
- 特許は分散されたポートフォリオがあり、たえず新しい特許によって更新されることが重要である。有力な特許は申し立てを受けることも多く、利益を少数の特許に頼る企業にはリスクがある
乗り換えコスト
- 乗り換えコストとは、A社の製品からB社の製品に乗り換えたときの利益がコストよりも小さいことを指す
- 乗り換えコストには、金銭的なコスト、従業員の再訓練、事業リスクといった要素から構成される
- 小売業や飲食業など、消費者志向の企業は乗り換えコストが低く、これらの企業の弱点になっている
ネットワーク効果
- ネットワーク効果に基づいたビジネスは、自然に少数企業による独占状態を生む
- ネットワーク効果の恩恵を受ける企業は限られており、物理的な財を扱うビジネスよりも情報を共有したりユーザ同士をつないだりするビジネスに多い
- 早期に優位性を確立することが重要である。イーベイは日本に参入したがヤフーオークションがネットワークを作り上げていたため勝てなかった
- 閉じたネットワークであることが重要である。先物は買った取引所で売らないといけないが、株式は買った取引所と異なる取引所で売ることができる。そのためNYSEよりもCMEのほうが競争上の優位性が高いといえる
コストの優位性
- コスト的な優位性には、安い製造過程、有利な場所、独自の資産、規模の大きさという4つの要因がある
- 安い製造過程は長い期間持続せず、ライバル企業にキャッチアップされることが多い。デルやサウスウエスト航空は今ではかつての優位性を大幅に失っている
- 有利な場所はより強い優位性である。セメントは運送コストが大きいため、セメント工場は近隣地域の建設現場に最低コストでセメントを供給することができる
- 独自の資産も強い優位性であり、たとえば天然資源や土地が挙げられる
- コストの優位性が効果を発揮するのは、顧客の判断基準のなかで価格が大きな割合を占める場合である