テクニカル分析の手法を統計的に評価し、有意性のある手法とそうでない手法を見分ける方法を議論した本。
世の中にはさまざまなテクニカル分析がありますが、なぜその手法で将来の値動きを予測できるのか、定量的な根拠が示されることはほとんどありません。株の本に「チャートがこの形になったら上がる」「移動平均線がこうなったら買い」などとあっても、その根拠には触れていないことが多いですし、触れていたとしてもたいていは群集心理などにもとづく曖昧な説明です。
それらの手法が本当に役に立つものなのか、読んでいて疑問に感じる人は多いでしょう。株を始めた頃の自分も、RSIって売られすぎの状態がわかるというけどちっとも勝てないな、とか思いながらトレードをやっていましたが、当時の自分が本書を読んでいたらムダな回り道を1つ避けられたはずです。
さて、本書の流れを簡潔にまとめると、テクニカル分析の手法は以下のように分類されます。
1.は客観的に定義することができず、人によって解釈がバラバラになってしまう手法で、たとえばトレンドラインのようなものです。2., 3.は客観的に定義できる、つまり検証可能なアルゴリズムに変換できる手法であり、統計的有意性検定の結果によって2.と3.に分かれます。
われわれにとって価値があるのは3.のみですが、既存のテクニカル分析の大部分は、客観的な定義は可能であるものの統計的な有意性を示すことはできず、2.に含まれます。実際、著者がテストしたテクニカル分析のルールの中に、統計的な有意性を示すものはありませんでした。
ケーススタディの第二の目的は、S&P500指数に適用したときに統計的に有意なリターンを生み出すルールを発見することであった。このために、第8章で述べた6402のルールの検証を行い評価した。
(中略)
第二の目的に関しては、残念ながら統計的に有意なリターンを生み出すルールを発見することはできなかった。つまり、6402のルールのいずれも、検証において、有意水準0.05で虚無仮説を棄却できるほど高い平均リターンを生み出すことはできなかったということである。 (本書第9章より)
とはいえ、著者はテクニカル分析を全面的に否定しているわけではありません。効率的市場仮説を論駁してマーケットには非ランダムな値動きがあることを述べた上で、「科学的なテクニカル分析」で非ランダムな値動きを捉えることを読者に勧めています。クオンツとかシステムトレーダーと言われる人たちがやっているアプローチですね。
科学哲学や統計学の基礎的な議論から入っていくので冗長であり、難解な箇所もあります。ボリュームもあって精読するのは大変ですし、読み飛ばしながら興味を持てるところだけ読んでいけば良いと思います。他にないオリジナリティがあり、正しいスタンスで相場に取り組むための一助となる本です。とっつきづらさを乗り越えて読むだけの価値があります。