駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] ファクター投資入門 (アンドリュー・L・バーキン、ラリー・E・スウェドロー)

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主要なファクターを取り上げてそれらの特徴について論じた本。市場ベータ、サイズ、バリュー、モメンタム、クオリティ、ターム、キャリーの7つのファクターについて書かれています。

著者は有用なファクターに必要な要件として以下の5点、

持続性

長期間にわたり、異なる経済体制下でも有効である

普遍性

あらゆる国、地域、セクター、アセットクラスで有効である

安定性

どのような定義でも有効である

投資可能性

机上のみならず、取引コストなど実践するときの検討事項を考慮した後でも有効である

合理的な説明

そのプレミアムとそれが存続する理由をリスクや行動に基づいて、合理的に説明することができる

を挙げた上で、それぞれのファクターについて要件を満たすかどうか検討していきます。読んでいておもしろいのは「合理的な説明」の箇所で、そのファクターについて広く知られた後でもなぜプレミアムが消失しないのかが述べられます。全体的な傾向としては、行動経済学というか、マーケット参加者の振る舞いのバイアスによって説明されることが多いようです。より高いリスクを取る対価(リスクプレミアム)として説明されることもあります。

株式市場におけるアノマリーとして、小型株効果やモメンタム効果がよく話題になりますが、なぜそれが有効なのかしっかりした説明がなされることはまれです。たびたび疑問に思っていましたが本書はその答えを示してくれるものでした。

書名に「入門」と付いていますが入門書というには難易度が高く、ファクター投資について基礎的な知識があることを前提に書かれています。ファクターとは何かがそもそもわからないようだと本書はハードルが高く、より平易なものを読んでから手を着けた方がよいでしょう。

以下は本書で挙げられている合理的な説明のメモ書きです。書かれていることが絶対の正解というわけではなく、さまざまな人たちが定量的な根拠に基づいてこのような説明を試みているということです。本書の巻末には文献へのリファレンスがまとめられています。

サイズファクター

  • 小規模の企業には大きな財務レバレッジ、弱い資金調達力、激しい利益の変動、キャッシュフローの不確実性といった特徴があり、より高いリスクプレミアムが求められる
  • 景気サイクルのリスクに対する補填。小型株は不況期に業績が比較的低迷する傾向にあり、不況期にパフォーマンスが振るわない資産にはリスクプレミアムが求められる
  • 小型グロース株はショートするために株式を借りるコストが高くなる傾向があり、貸株の供給も限られるため、アノマリーが持続することが可能となる

バリューファクター

  • バリュー企業は過剰な生産能力を保有しており、好況期のみ生産能力を十分発揮できるためリターンが景気循環的となり、それに見合うリスクプレミアムが求められる
  • バリュー企業は苦境に陥っている企業であり、財務レバレッジが高く、キャッシュフローの不確実性が高いため、より高いリスクプレミアムが求められる
  • バリュー企業への投資家の期待は悲観的であるが、ファンダメンタルズが改善しても悲観的な期待はなかなか好転しない(アンカリング)ため、ミスプライシングが発生する
  • 可能性は小さくても巨大な報酬をもたらす「宝くじ」投資を好む投資家が多いためグロース企業は割高になり、グロース株の相対的に低いリターンがバリューファクターのプレミアムに反映される

モメンタムファクター

  • 投資家は企業の業績などの発表に当初は過小反応を示し、やがて長期的に価格が修正される
  • 多くの決算発表が行われた後の数日は、投資家が膨大な量の情報に圧倒されてしまうため、連続した株価の変動がより多く現れる(限定注意バイアス)
  • 投資家は利益の出ているポジションを早めに手じまい、損の出ているポジションを持ち続ける傾向がある(気質効果)