駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] 調達・購買・財務担当者のための 原材料の市場分析入門 (新村直弘)

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企業の購買担当者に向けて原材料価格がどのように決まるか解説した本。石油、天然ガス非鉄金属、貴金属、穀物が扱われています。資源株を触るようになったので基礎的な知識を学ぼうと思って読みました。

コモディティの価格に影響を与える要因が幅広く列挙されており、人口動態や実質GDPのようなマクロ要因から、「○○が××に影響を与える」という個別の因果関係まで書かれています。たとえばトウモロコシの生産コストの20%は燃料代と肥料代が占めており、化学肥料の生産にエネルギーを多量に使用することもあって、資源価格への感応度が大きいんですよとか、そういうトリビアめいたことがわかります。なおトウモロコシは20%だけど小麦は15%、大豆は10%程度で、資源価格の影響をもっとも受ける穀物はトウモロコシなんだとか。投機資金の影響についても、投機資金割合やその動き方が商品ごとに検討されています。

また、実務家向けの本らしく、資源価格の変動が企業にどのような影響を与えるかも文量を割いて書かれています。株式投資をやるにはむしろこちらのほうが役に立ちそうです。エネルギーにしろ穀物にしろ日本の法制度に制約される部分も大きいのですが、自分の知らなかった制度の話をあれこれインプットできました。

類書を他に読んでいないので比較はできませんが、自分の知りたかったことが書いてあってとても良い本でした。図書館で借りて読みましたが買って手元に置いておこうと思います。

資源生産者

油田や鉱山から生産コストをかけて資源を獲得し、販売して利益を得る。生産コストが固定的であるのに対して販売価格は変動するため、企業業績は商品市場の動向に大きく左右される。

長期契約や先物によるヘッジで業績を安定させることも可能であるが、伝統的に商品市場の価格変動リスクを100%取る企業が多い。ただし、自己資本が少ない企業においては、市場価格の変動が破綻に繋がるリスクがあることから、価格変動リスクをヘッジしているケースもある。

石油精製業者

原油を輸入し国内で石油製品に精製して販売する業態であり、原油と石油製品の価格差(スプレッド)が利益となる。原油価格と石油製品価格は常に連動するわけではなく、基本的にはスプレッドに企業業績が左右される。

日本の石油元売りには民間備蓄制度が適用されるため、原油と石油製品を一定量在庫として保有しなければならない。相場が大きく変動すると在庫評価損益が業績に影響を与える。

原油先物買いと石油製品の先物売りを組み合わせることで、スプレッドの変動をヘッジすることは可能であるが、石油元売りの扱う規模では証拠金が莫大になるなどのオペレーション上の制約があり、調達コストの上昇分をそのまま最終商品価格に転嫁することが多い。

金属製造業

石油精製業者と似た構造を持つ。非鉄金属では精錬品の価格がLMEベースで決定されるケースがほとんどであり、売上高はLMEの動向に左右される。また、鉱山会社との交渉で決定されるTC/RCがその年の営業利益の基準となる。

なお、TC/RCはLME相場が上昇して鉱石需要が増加しているときには鉱山会社に有利になるように低く、逆にLME相場が下落しているときは精錬業者に有利になるよう高くなる傾向がある。

金属の精錬に大量のエネルギーを消費する特徴がある。鉄鋼業であれば燃料のほか、原料炭価格の上昇が利益の圧迫要因となる。

運輸業

人やモノの輸送に大量の燃料を消費するため、燃料価格の上昇リスクを負っている代表的な業種である。燃焼価格の上昇分を運賃に上乗せすることができないと、燃料価格の上昇は利益の減少に繋がる。

空運業では、サーチャージ制が国際線で採用されているため、燃料価格の上昇リスクは軽減されている。ただし、サーチャージ制のない国内線は新幹線などの代替手段が存在することもあり、燃料価格の上昇分を顧客に転嫁するのが難しい。そのため、国内線向けの燃料価格のみをヘッジするケースが多い。定期的に燃料価格上昇リスクを回避する「定例ヘッジ」を活用していることでも有名である。

海運業では、燃料価格の上昇を荷主に転嫁できるBAF付になっている契約と、船賃が固定価格になっている契約があり、それらの割合によって企業業績への影響が変化する。

陸運業では、トラック輸送が2008年よりサーチャージ制を導入している。ただし大手と下請けの契約は固定価格となっていることがあり、その場合は燃料価格の上昇リスクを下請けが負うことになる。鉄道やバスは燃料価格の上昇を顧客に転嫁することが難しく、公共交通では燃料価格が業績を圧迫すると県や市町村から補助金が出されている。

電力、ガス会社

原燃料費調整制度によって燃料価格の上昇を電力・ガスの販売価格に転嫁する。

算出に用いる燃料価格の参照期間にズレがあり、たとえば1~3月の燃料価格が電力・ガス価格に反映されるのは6月になる。このとき、6月の売上は3ヶ月前の燃料価格で、費用は6月の調達価格で決定される。そのため、原油LNGの価格上昇は利益の減少要因となる。