東証カジノでも猛威を振るうアルゴリズムについて書かれた本。2018年11月の出版で、HFTにも1章が割かれているなど、それなりに最近の事例までフォローされています。株とFXのアルゴリズムが扱われており、文量としては株が8割、FXが2割くらい。
この分野の概観をまとめたという感じで、取り上げられているアルゴリズムもぐぐって見つかるようなレベルの記述に留まっていますが、見通しを掴むにはよくまとまっています。大学の教科書みたいなスタイルで、文体も硬くやや読みづらいです。ただ、言葉の定義などをいちいち丁寧にやって進めていくので、前提知識がなくても読めるようになっています。
最近は日本株もあらゆる銘柄にアルゴがいるような状況で、株のトレードをしていると日常的にアルゴの動きを目にします。本書を読んでいると「あっ、このアルゴよく見るやつだ!」とか思い当たる箇所が多々あって、株をやる人はそういう意味で楽しめるはず。トレードにそのまま役立つような本ではありませんが、トレードステーションなどでシステムトレードをやるような人であれば参考になるのかも。
本書で扱われているアルゴリズムは以下の通り。
執行アルゴリズム
執行のリスクやコストを抑えるためのアルゴリズム。
アイスバーグ (Iceberg)
注文を小出しにするアルゴリズム。本当の注文数量のうち、板には一部しか見せず、板に載せた注文が約定すると次の注文を発注する。
ステルス (Stealth)
自分の注文を板に出さず、板に買いたい値段の注文が出てきたらそれをテイクする。
ペギング (Pegging)
最良気配から一定値もしくは一定割合離れた指値注文を出し、最良気配が変動するとそれに追随させるアルゴリズム。マーケットメイクに使われることもある。
レイヤリング (Layering)
各価格の中で優先度の高いポジションを取るために、複数の価格に分散して指値注文を入れる。
流動性ドリブン執行 (Liguidity Driven Order)
板の流動性を監視して、流動性が一定以上になったときに発注する。
SOR (Smart Order Rouiting)
複数の市場から最良の市場に発注する。
ベンチマーク執行アルゴリズム
執行結果を何らかのベンチマークに近づけるアルゴリズム。機関投資家が大口注文に使用する。
TWAP (Time-Weighted Average Price)
時間で平準化して発注するアルゴリズム。取引したい数量を等時間間隔に分割して発注する。
VWAP (Volume-Weighted Average price)
自己のVWAPを市場のVWAPに近づけることを目指すアルゴリズム。日中の出来高分布で正規化して分量をスライスして発注することが多い。
POW (Percentage of Volume)
市場の出来高に対して一定割合を占めるように発注する。
PI (Price Inline)
VWAPの変形版。VWAPよりも現在の価格が小さいときは大きめの数量で、大きいときは小さめの数量で発注する。
MOC (Market on Close)
自己のVWAPを市場の終値に近づけることを目指すアルゴリズム。
IS (Implementation Shortfall)
マーケットメイキングアルゴリズム
マーケットメイクに使用されるアルゴリズム。売り買い両方の注文を板に出す。
市場仲値参照
市場仲値を参照して自己の注文価格を決定する。
市場実勢価格連動
板の状況が変化して価格がどちらかに動いたときに、取り残された指値注文をテイクする。
市場流動性活用
板に他の参加者の大口注文があるとき、その手前に発注する。
裁定アルゴリズム
マーケットの歪みに注目して裁定をおこなう。
同一商品間裁定
同一の商品が複数の市場で取引されている場合に、その価格差を裁定する。
理論的裁定
デリバティブなど、金融価格などのモデルに従って理論的な価格が算出できる対象について、理論価格との価格差を裁定する。
統計的裁定
他の市場参加者が気付いていない統計的な歪みを裁定する。
ディレクショナルアルゴリズム
値動きを予測して積極的にマーケットリスクを取る。
トレンドフォロー (Trend Following)
過去時点で発生したトレンドが未来も続くことを期待して取引を行う。
モメンタムトレーディング (Momentum Traing)
短期的に発生したモメンタムに乗る取引を行う。
ミーンリバージョン (Mean Reversion)
価格変動が行きすぎたときに均衡価格に戻ることを期待して取引を行う。
レンジトレーディング (Range Trading)
値動きがあるレンジで推移することを期待して取引を行う。
ニュース・イベントドリブン (News / Event Driven)
企業のニュースや指標の発表など、株価の動く契機で取引を行う。
市場操作系アルゴリズム
他の参加者を誘導するなどして市場操作を狙う。不正な要素を含むこともある。
フロントランニング (Front Running)
ブローカーが顧客からの注文情報を利用して、自己に有利な自己売買を行う。
スプーフィング (Spoofing)
複数の価格に大量の注文を出し、他の投資家の予測を誤認させる。
ストロビング (Strobing)
一瞬だけ板に注文を出すことで、他の参加者の予測を誤認させる。
モメンタムイグニッション (Momentum Ignition)
特定方向に注文を出すことで他の参加者の予測を誤認させる。
ストップロスイグニッション (Stop Loss Ignition)
他の投資家のストップロス注文を狙って値動きを誘導する。
プッシュザエレファント (Push the Elephant)
売買意思があると思われる大口注文が板にあるときに、自己の注文で最良気配を更新することで大口の注文を誘導する。
ゲーミング (Gaming)
自己の注文で最良気配を更新し、気配値を参照しているダークプールの価格を操作する。