駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] 外資系運用会社が明かす投資信託の舞台裏

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ドイチェ・アセット・マネジメントという資産運用会社の人たちが書いた本。投資信託を運用する資産運用会社がどういう業務をやっているのかを淡々と述べた本です。初心者向けに投資信託の説明をした章もありますが、ページ数としては多くありません。文体も硬くて大学の先生が書いているような印象です。「このファンドを買えば儲かる!」みたいな内容はどこにもありません。

資産運用会社というと運用部門があって、ファンドマネージャーやトレーダーがいて……というイメージがまずありますが、他にもマーケティング部門、営業部門、バックオフィスがあって、コンプラやシステムの部署もあって、こういう人たちがこういう仕事をしているんですよ。1本のファンドを立ち上げて運用していくためにこんなにたくさんの仕事があるんですよ、ってのが丁寧に説明されています。興味のある人はとても面白く読めるけど、そうでない人には退屈なだけという本だと思います。

駄犬は投資信託はほとんど買わないのですが、投資信託という仕組み自体には興味があって、なかなか面白く読めました。資産運用会社の中の人が書いているだけあって、あまり一般には知られていないようなことも書かれています。少なくとも駄犬にとっては、この本で初めて知ることが多々ありました。たとえばこんな感じ。

必ずしも名前の付いた証券会社が運用しているわけではない

本書でいちばん驚いたのがこれでした。たとえば「ダイワ米国リート・ファンド」という投資信託があります。この名前を見たらたいていの人は、大和証券が運用している投資信託なんだな、と思うでしょう。

しかし実際には、この投資信託を運用しているのはCohen & Steers Capital Management Incという海外の運用会社です。大和証券は投資家のお金を集めて運用を委託しているだけなんですね。他にもこういう投資信託はたくさんあるとのこと。

特に海外の株式や不動産に投資する投資信託の場合、母国語による情報取得の優位性、現地の動向の把握といった理由から、海外の運用会社に運用を委託するケースが増えているそうです。理由としてはもっともな気がするけど、大手証券会社の名前が付いている安心感でお金を預けたら、実際はよくわからない海外の会社が運用しています、というのは一般投資家からすると違和感があるような。

業界団体による自主規制

資産運用業界には投資信託協会という自主規制団体があり、「投資信託等の運用に関する規則」というレギュレーションが策定されていて、リスクの規制が設けられています。たとえば以下のような項目があります。

  • 株式の特定銘柄の比率が10%を超えないこと
  • 債権の特定銘柄の比率が10%を超えないこと
  • デリバティブも含めて同一発行体への投資の比率が合計で20%を超えないこと

こうやって具体的な数字でルールが決められていると、個人投資家にとっても参考になるかもしれませんね。暇なときに読んでみようかなと思いました。

投資信託の資産規模

2015年とやや古い数字ですが、これくらいの規模があります。

  • 投資信託全体で167.9兆円
  • 公募投信が105.1兆円、私募投信が62.9兆円
  • 公募投信を投資対象で分類すると、株式が81.7兆円、公社債が16.0兆円、不動産が7.3兆円
  • ETFは16.2兆円

私募投信って大きいんですね。私募投信というものが存在すること、最近その規模が大きくなっていることは日経の記事で読んだことがあって何となく認識あったのですが、こんなに金額があるんだ。公募投信だったら、組み入れの比率などが公開されていて参考にできるんですけどね。

……というわけで、けっこうおもしろいことが書いてある本だと思います。読んでいて印象的だったのは、マーケティングの重要性が繰り返し述べられることです。投資信託を組成するだけで売れるわけではない、どんなにすばらしい投資信託であっても個人投資家や販売会社にうまく伝えられなければ売れないし、一定の資産規模がなければ維持することができないと。当事者の書くことなので実感がこもっています。最近ではインターネット証券が販売チャネルとして大きくなっており、たくさんの投資信託がある(2015年には709本の投資信託が新たに設定されたとのこと)中で埋没してしまうそうです。