駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本] 貸株市場入門 (植月貢)

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証券会社や機関投資家が貸株を融通する相対取引の市場について書かれた本。金融業界の実務担当者向けに書かれており、バックオフィスで使われる帳票のサンプルが載っていたりします。

1999年発行と古いのですが、基礎的な知識を得るには有用な本です。個人投資家信用取引建玉を建てたり貸株サービスで現物株を貸し出したときに、証券会社の裏側でなにが起きているのかは見えづらい部分ですが、おぼろげにでもイメージができるようになります。反面、発行から20年も経つとシステム化も進んだだろうし、今では本書の内容と食い違っている部分も多いだろうとも思います。貸株の市場規模も当時よりもかなり大きくなっているでしょう。ネット証券がこぞって貸株サービスを提供するようになり、貸株は以前より身近になりましたし、ぜひ改訂版を出してほしい。

著者は短資会社の所属で、おそらくブローカーとして貸株市場に参加しているものと思われます。そのため貸株の借り手と貸し手がどのような意図で取引を行うのかという点は記述が乏しいです。特に貸株を借りる側の機関投資家がどういう株を借りて、どうやって(空売りに)使うのかは本書を読んでもわかりません。

貸株市場
  • 証券会社や機関投資家が参加する相対取引の市場
  • 日本株の貸株市場の規模はおよそ10兆円。内訳はエクイティ・レポが8兆円、ストック・レンディングが2兆円
  • ブローカーを通すことが多い。機関投資家が相手と直接取引をするとポジションが相手にわかってしまうため
貸株取引
  • エクイティ・レポ(ジェネラル取引)とストック・レンディング(スペシャル取引)
    • エクイティ・レポ:銘柄を特定しない取引。「一部上場の銘柄で一定基準を満たすものを100億円」のように大まかな条件で取引する。貸借料率は小さく0.01%が相場
    • ストック・レンディング:特定の銘柄を貸借する取引。貸借料率は銘柄のニーズ次第
  • コーラブル取引とノンコール取引
    • コーラブル取引:貸借期間中、いつでも借入者が借りていた株を返還できる権利がついた取引
    • ノンコール取引:貸借期間が終わるまで返還できない取引
  • ターム取引とオープンエンド取引
    • ターム取引:契約締結時に取引決済日(エンド日)を定め、中途解約はできない取引
    • オープンエンド取引:契約締結時に取引決済日(エンド日)を定めず、貸出者・借入者のいずれかが貸借期間中に指定する日をエンド日とする取引
  • 借入者は株券を借りるときに担保(現金)を差し入れる。担保には担保金利(TIBOR+α)が付く
証券金融会社
  • 資金調達
  • 株券調達
    • 証券会社が担保に差し入れている株券を使う(食い合い)
    • 食い合いで貸株超過となる場合、借株返済の追加申し込みで解消を図る
    • それでも貸株超過が解消されない場合は入札方式による品貸しの申し込みを募る。午前10時まで入札を受け付け、参加者が逆日歩を付けて入札する。落札された品貸しのうちもっとも高い逆日歩が当該銘柄の逆日歩となる
    • 入札によっても貸株超過が解消されない場合、特別品貸料率を採用してさらに午前10時半まで入札を受け付ける
    • それでも解消されない場合は機関投資家、金融法人、事業法人等と直接交渉する
証券会社と逆日歩
  • 証券会社の店内で制度信用が買い長になっていても、証券会社は超過した全量を証券金融会社に付出するわけではない(自己融資)
  • その状態で逆日歩が付くと、自己融資している株の逆日歩は証券会社の持ち出しになる
  • そのため証券会社は店内で買い長になっている銘柄に逆日歩が付きそうになると、(店内の状況から可能であれば)証券金融会社に貸株の返済を申し込むか、逆日歩の入札にゼロ銭で応札して、逆日歩が付かないようにしようと試みる
  • その結果、貸株返済で一致すれば満額となり、入札で不足した株数の全量をゼロ銭でカバーできれば逆日歩ゼロ銭となる