駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本]ザ・クオンツ (スコット・パターソン)

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クオンツ年代記五月さんのblogで紹介されているのを見て、アンワインドの裏側を知りたいと思って読みました。1960年代からスタートして著名なクオンツの事績を追いかけていく構成で、エド・ソープによる転換社債と現物株のアービトラージから始まったクオンツ的なアプローチが徐々に高度化し、やがて巨大なクオンツファンドがいくつも登場するようになるまでの歴史が語られます。マーケットで起きた事件としては、1998年のLTCM崩壊と、2007年のクオンツショックが詳しく扱われています。

大規模なアンワインドが発生したのはクオンツショックのときです。2007年当時、数十億ドルを運用するクオンツファンドはごく僅かで、それらのトップはお互い顔見知りで集まってポーカーやったりする仲でした。アプローチもそれなりに共通性があって、おそらくポジションも似通っていたんでしょう。突然ポートフォリオの損益が悪化しはじめてビビった彼らがポジションを解消しようとして、同じ方向に売買のフローが集中することになってクラッシュを加速させ、それがさらに損失を拡大させる方向に作用しました。お互い顔見知りだから電話して「おまえ売ってないだろうな?」「GSは売ってるのか?」みたいな探り合いのやりとりしてて、クオンツファンドといっても内実は人間味があります。どうもGSのクオンツファンドが損失を抱えて、一気にポジションの解消を図ったのが引き金となったようです。

アンワインドで発生する値動きは短期的な需給の歪みによるもので、五月さんのblogで取り上げられているドコモとKDDIの株価を見ると、ドコモが年初来+2.1%、KDDIが同+2.9%と8/17現在ではほぼ同じ数字になっています。もし本書を読んでいたら、コロナショックの最中にもう少し冷静でいられたかもしれません。マーケットの歴史を学ぶことにはやはり意味があります。

本書は4人のクオンツを中心に話が進みます。ピーター・ミュラー(PDT)、ケン・グリフィン(Citadel)、クリフ・アスネス(AQR)、ボアズ・ワインシュタイン(サバ・キャピタル)です。彼らはそれぞれクオンツショックで大損し、クオンツたちはリーマンショック後に冬の時代を迎えます。本書は2010年発行のためそこまでで話は終わっているのですが、彼らは4人とも今なおクオンツファンドのトップとして相場におり、特にワインシュタインのサバ・キャピタルはコロナショックで+82%のリターンをあげています。復活ぶりに驚くとともに、本書でカバーされていない2010年代のクオンツの歴史も調べてみたいと思いました。

www.bloomberg.co.jp