駄犬の株ログ

「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

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「株価は、恒久的に高い高原のようなものに到達した」(アーヴィング=フィッシャー, 1929年)

[投資本]ウォール街の物理学者 (ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール)

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金融工学の発展に貢献した科学者の伝記集。『ザ・クオンツ』が面白かったので、同じような本を他にも読んでみようとおもって読みました。

フィッシャー・ブラック、ブノワ・マンデルブロといった科学者を取り上げて、生い立ちと事績を紹介するという内容。短い伝記が8篇、独立して載っている感じです。全体を貫くストーリーとかはありませんし、それぞれの仕事がお互いどう影響しているかもあまり説明されません。

著者は本職の物理学者で、取り上げられている科学者たちはアカデミアからの目線で語られます。どういう博士論文を書いて同時代の学者にどう評価されたか、みたいなことがやたら細かく書かれている一方、彼らの仕事がヘッジファンドや金融機関のビジネスにどう影響を与えたかは通り一遍の説明に留まっている印象です。トレーダーなら『ザ・クオンツ』のほうが面白く読めるでしょう。

ラスベガスのカジノで攻略法を自ら実践したエド・ソープや、大学教授から転じてGSのパートナーまで上り詰めたブラックなど、破天荒な人物が多くて面白く読めます。また、1900年ごろから徐々に歴史を下っていく構成で書かれているので、アカデミアと金融機関との境界がなくなり、科学者たちが当たり前のように金融機関にスカウトされたり自分でファンドを作ったりするようになる時代の変化を感じられます。

以下、自分が本書を読んで知った、比較的知られていない思われる科学者について簡単にまとめておきます。

ルイ・バシュリエ

フランスの数学者。金融工学の嚆矢といえる人。1900年に執筆した博士論文『投機の理論』は、確率論をマーケットの値動きに適用し、将来の価格を予測するという先進的な内容だった。オプションの適正価格についても研究した。しかし当時の数学者からは評価されず、母校(パリ大学)に職を得ることも出来なかった。1914年には徴兵に取られて第一次世界大戦の戦場へ送られた。

1918年に戦場から生還し、その後はフランスの二流どころの大学で教職を得たが、研究への情熱を失い、論文もほとんど書かなくなった。評価されないまま1946年に死去した。しかし彼の死後、MIT経済学部のポール・サミュエルソンが『投機の理論』を発掘し、方々で紹介したため再評価されることとなた。

モーリー・オズボーン

アメリカの物理学者。海軍研究試験所(NRL)の研究者。1959年に論文『株式市場のブラウン運動』を発表、株価の値動きを分析して「株価の収益率が正規分布に従う」と結論づけた。彼の論文はその着想においてルイ・バシュリエと同じものだったが、批判的な反応もあったものの概ね評価され、論文誌にも掲載された。

オズボーンは60年代に入ると考えを変え、60年代半ばに発表した論文で「ある時点において株価が上がる確率と下がる確率が必ずしも同じではない」と主張した。また、投資家がキリの良い数字に指値を出す傾向があることに注目し、キリの良い数字の手前でサヤを抜くアルゴリズムトレードのプログラムを設計した。同種のプログラムは後に実現し、実際にマーケットで使われるようになる。